浮きの小箱

雑感を小箱に詰めていきます。

読書「あちらにいる鬼」


f:id:ukiukibox:20200913163151j:plain

 

あちらにいる鬼  井上荒野

 

もうこれもずっと以前に読んだやつ。

「暑い、暑い」と扇風機に当たりながらダラダラ読んだんだった。

この小説は、そんな風に少し不真面目に読むのが良いと思うの。

 

この小説の刊行時、世間にセンセーショナルに取り上げられたので、言わずもがなの不倫ストーリーである。

井上荒野さんのお父様、小説家井上光晴氏と瀬戸内寂聴さんの不倫関係は長く深く続き、寂聴さんが仏門に入られたあとも「同志」として濃い付き合いがあった。

井上氏の女性関係は寂聴さん以外もあちこちに種を蒔いて、そこそこの事件が勃発するのだが、笙子夫人にとっては、寂聴さんにだけ夫、井上光晴を共有しているという、ある種のシンパシーを感じていたよう。

そのへんところの笙子夫人の心理状態が、なによりこの小説の「軸」とわたしは思っている。

 

それにしても井上光晴というモテ男、時代が時代ならSNSで大炎上騒動を何回もやらかしたうえ、社会的に抹殺されるのがオチの「男」である。

出生地も職歴も「嘘」で固め、全身全霊小説家という出で立ちは、今のご時世では、ただの「嘘つき男」に成り下がる。

時代背景がその人自身を、崇めたり貶めたり。

人は時代の後からついてゆき、時代に合わせて生きていくものだ、と、ちびちびと思いながら読んだのだった。

「不倫は文化だ!」誰かが言ってたけど、あれ、あながち嘘じゃないかも。

 

f:id:ukiukibox:20200914153805j:plain

 

 

井上荒野さん、このかたのバックグラウンドにとても興味が持てた。

両親のことを小説にする、という大胆な気概は父親譲りかもしれない。

物書きへのエスコート役は、すでにこの世にはいない光晴氏に他ならないのではないかしら。

光晴氏、空の上でニタニタしているか。してるな絶対。

 

ほかにも読んでみたくなり、図書館の棚にあった荒野さんの蔵書を、目をつぶって一冊選ぶような気持ちで借りてくる。

「だれかの木琴」

 

昨今、不穏小説というと今村夏子、っていう図式が出来上がってるけれど、荒野さんも負けてはいない気がする。

日常の中にある狂気以前の気持ち悪さは、今いろんなところにフツーに落ちてるからね。題材に事欠かないのはこの領域かも。

 

2016年に映画にもなったのね。

ストーカーまがいの主婦が常盤貴子。美容師が池松壮亮

常盤ちゃん、美しすぎてどーだろ、って話し。池松壮亮はそのまんまイメージ通り。