浮きの小箱

雑感を小箱に詰めていきます。

読書『道行や』

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道行きや  伊藤比呂美

 

カリフォルニアで男と暮らし、子どもを育て、介護のために日本と行き来、父母を見送り、夫を看取り、娘と離れて日本に帰国。現在は、仕事のために熊本と早稲田を行ったりきたりする日々。漂泊しながら生き抜いてきた、伊藤比呂美が見ている景色とは――。女たちの暮し、故郷の自然、一頭の保護犬、河原の古老、燕や猫やシイの木やオオキンケイギク、そして果てのない旅路に吹く風……。人生いろいろ、不可解不思議な日常を書き綴る、珠玉のエッセイ集。

 

 

わたしは比呂美さんのことを、「カルフォルニアで男と暮らす」前から知っている。

カルフォルニアの男」の前、「ポーランド文学者の日本男性」と結婚していたころから勝手に知っている。

良いおっぱい悪いおっぱい」「おなかほっぺおしり」は、ポーランド文学者である前夫との間に授かった女児二人を「がさつ・ぐうたら・ずぼら」を合言葉に育てたという比呂美さん著の破天荒な育児書だ。

この育児書(というよりエッセーだな)を手にして、当時のわたし、くっくっくと笑ったのだ。

「母親はこうあるべき」で身も心もギューギューだった日々に、気持ち良い風が吹きこみ、読後には窓を全開したような開放感を 感じたものだった。

 

カルフォルニア男」と結婚し、さらに一児を設け、育児エッセー「おなかほっぺおしりトメ」を発表した時は、なにかほのぼのとした気持ちで読ませてもらった。

ほぼほぼ子育てが終わっていたわたしは、熊本弁とカルフォルニア弁のバイリンガルのトメちゃんの育児に奮闘する比呂美さんを心から応援して、この著書を読んだ。

「比呂美さん、やっぱりはんぱない!」って。

 

子育てを終えた比呂美さんにやってきたものは、親の介護と年の離れたカルフォルニア夫の介護、そして看取り。

それらのことは、著書「父の生きる」や「切腹考」に書かれていて、同じころ、やはり父を亡くしたわたしにも痛い心が伝わった。

 

比呂美さんは今や早稲田大学の教授である。

っていうか、もともと詩人で、多くの詩集も出版し文学賞なども多数とられた偉大な方なんだった。

wlikipedhiaを見ると、その華々しい経歴に「おなかほっぺおしり」などは異質な感じすらするけれど、きっとわたしのような、比呂美風育児エッセーのファンもいると思うのよね。

 

難しくて理解しがたい著書もあり、それはなんとなく書の気配で感じるので、手を出さないことも往々にしてあるけれど、「道行や」は、漂流しながら生き抜いてきた比呂美さんが立ち止まり、この通過点で感じたことのアラカルトが書かれていて、手を出さずにいられない一冊だった。

 比呂美さんの回りにいろいろな不思議は、わたしたち凡人には持ち合わせていない感情から生まれる不思議なんだろう。

人生の不思議さを、不本意でも心から受け入れ、全力で悩み闘う姿に、生涯リスペクトし続ける方です。